Gipsy Kingsの名前は誰のもの?

Bamboleo、Volare、Djobi Djobaなど数々のヒット曲を世に送り出し、ジプシー音楽シーンの金字塔を打ち立てたGipsy Kings(ジプシーキングス:以後GKと略)。2020年になった今でもファンのみならず世界中の音楽関係者からも一目置かれる存在です。

しかし、GKのオリジナルメンバーの8人(Nicolas Reyes、Tonino Baliardo、Paul Reyes、Patchai Reyes、Canut Reyes、Diego Baliardo、Paco Bailardo、Andre Reyes)が同じステージに立つことは、もはや幻。ほぼ不可能と言ってもいいかもしれません。

遡ること2013年。当時発表されたGK最新アルバム「Savor Flamenco」とそれにまつわるライブツアーを最後に、彼らは同じステージに立つことがなくなりました。
金銭的あるいは権利的な問題も絡んでることでしょう。でもおそらくグループの要であるNicolaとToninoがそれぞれの子供たちをグループに招き入れ、新たな体制をつくろうとしたのがことの発端と考えられます。

Savor Flamencoがリリースされた頃、Nicolaの息子のYohan、Toninoの息子のCossoとMichaelの3人は次世代2軍バンド「Ole Noys」としてGKライブのオープニングアクトを務めていました。しかしいつのまにやら彼らは1軍に昇格し、NicolaとToninoという二大アーティストとともに「Gipsy Kings」の名をほしいままにしています。

NicolaとTonino以外のオリジナルメンバーはどうなったのか。
悪く言えばGKを追い出される形になった彼らは、その後別のユニットに参加したり、自らグループを結成してライブツアーを行ったり、それぞれの道を歩むことになりました。
しかし残念ながら個人名あるいは別のグループ名だと認知度の低さからお客さんも集まらず、大きなライブも開催できません。
ところが「Gipsy Kings by ○○」というタイトルさえつければ一気に注目を浴びることができます。これぞまさしくネームバリュー。「Gipsy Kings」という目に見えない巨大な印籠のおかげで分散した元メンバーたちもそれぞれ活躍の場が絶えないというわけです。

Gipsy Kingsオリジナルメンバーたちの活動状況

それぞれの活動状況をみてみましょう。

Andre Reyes

「Gipsy Kings by Andre Reyes」と銘打って、スペイン出身のミュージシャンChico CastilloやギタリストのMario Reyesらと組み、南米やオーストラリア、東欧など、世界各地でライブツアーを精力的に行ってます。

Gipsy Kings by Andre Reyes スクリーンショット
「Gipsy Kings by Andre Reyes」のWEBサイト

Totalisimoというイベント&マーケティング会社がバックについており、世界各地での大々的なライブが実現しているようです。しかし本家(NicolaとTonino)Gipsy Kingsから100%認められているわけではありません。
例えば、オーストラリアでのツアーの際には本物のジプキンと混同するので中止してくれ、と本家代理人からAndreらのプロモーターに要請があったそうな。

The Gipsy Kings reach agreement over former member’s Australian tour | The Industry Observer

しかし「元ジプシーキングスのアンドレによるライブ」ということが明確になっていればOKみたいな感じで、なんとか合意に達し、現在もその流れでツアー継続中です。

Diego Baliardo

「Gipsy Kings by Diego Baliardo」としてグループを組み、ヨーロッパを中心にライブを行っています。

Gipsy Kings by Diego Baliardo スクリーンショット
「Gipsy Kings by Diego Baliardo」のWEBサイト

GKでも元々地味な存在だったので、「誰それ?」状態に陥る人もいるかもしれませんが、やはりGipsy Kingsのオリジナルメンバーと紹介されるだけで観客のボルテージもうなぎのぼり。

ライブのメンバー紹介でDiegoが紹介される場面

フランスのあるメディアのインタビューでDiegoグループのマネージャーはこんなことを語ってます。

2014年〜2015年にかけて元々のグループは分裂しNicolaとToninoは去っていった。彼らはアメリカにいることが多いけど、2018年にグラミー賞を受賞したGipsy Kingsの創立者の一人、Diego Baliardoは活動を続けています。私たちは3人のヴォーカルを含む12人のアーティストでステージを構成します。私たちは本当のグループ精神を持っており、模範的な方法でステージに立っています。

Les Gipsy Kings préparent une surprise à leurs fans ! | lechorepublicain.frより引用

まるで自分たちが本家本元のような言い方ですが、マネージャーの発言なのでDiego本人の本音ではないと思います。

Gipsy Kings by Diego Baliardo
Gipsy Kings by Diego Baliardoのメンバーたち。(Photo : DR)
中心がDiego、両端にいるのはSoy(カマルグのジプシールンバグループ)でおなじみNenoとNeneto。

Paco Baliardo

Diegoと同じくBaliardo家の地味な存在ですが、やはり彼がいることで「Gipsy Kings」を冠せるわけです。
ギタリストのKema(元チコジプのリードギタリスト)らと組んでライブツアーを行なっています。主に東欧やバルカン半島の国々での開催が多いようです。

Gipsy Kings by Paco Baliardo スクリーンショット
「Gipsy Kings by Paco」のWEBサイト


↑セルビアのニーシュで開催された音楽フェスティバルでのライブ映像。ほぼ若手がメインですが、Pacoもちゃんとステージにいます。Kemaがにこやかに歌ってるのが新鮮に感じます。

Canut Reyes、Paul Reyes、そしてChico Bouchikhi

この2人もオリジナルのGK繁栄に大きく携わって来ましたが、もはや本家に戻る気配は感じられません。
彼らの現在を語る前にGKのもう一人の元メンバーChico Bouchikhiについて知る必要があります。

ChicoはJose Reyesの娘、Martheと結婚し、NicolaやCanutなどとは義弟の関係。初期のLos Reyes時代から活動を共にし、やがてGipsy Kings創設に大きく貢献。バンドのフロントマンそしてマネージャーとして世界に知られるGipsy Kingsを作り上げていきました。しかしGipsy Kingsのプロデューサーを務めていたClaude Martinezとの意見の相違から1992年にGK脱退。
その後Chicoは自ら新ユニット「Chico & the Gypsies」を結成し、近年ではカバーアルバムが話題になるなど世界的に活躍するグループへと成長しました。
しかしChicoは「Gipsy Kings」というバンド名の提唱者(もともとスペイン語のLos ReyesだったのをGipsy Kingsに改称。"Los Reyes"とは英語で"The Kings"の意味)ということもあり、その名を使うことを主張し、何度も裁判沙汰になりました。
結局主張が通ることはなく、2018年にはChicoが「Gipsy Kings」の名前を使わないように判決が下ってしまいました。

そこで考えたのが、CanutとPaul、そしてPatchaiのGKオリジナルメンバーたちと新たなユニットを結成することでした。
上述の通り法的にGipsy Kingsと名乗れない状況だったので「The Original Gypsies」と名を改め、Chico & the Gypsiesで活躍する若手たちとともに再出発を切ったのでした。

Gipsy Reunion

しかし間も無くPatchaiだけこのグループから抜け、今ではCanutとPaulがGKオリジナルメンバーとしてChicoのグループで活躍しております。

The Original Gypsies スクリーンショット
「The Original Gypsies」のWEBサイトから


CanutとPaulも参加した2017年のオリジナル曲「La Guapa」。

Pathcai Reyes

Chicoのグループに一度は参加したもののすぐに抜けてしまったPatchai。以前にGipsy Nouveau(ジプシーヌーヴォー)というグループを結成して活動していましたがそれほど話題にはならず。また、たまに別のグループのライブステージでゲスト演奏する程度で、あまり表立った活動はしていないようです。


ブラジルのRio de Janeiroで開催されたイベントには「Gipsy Kings by Patchai Reyes」として出演。息子のTambo Reyesや義理の息子で最近来日も果たしたギタリストMario Regis、甥っ子にあたるLittle Pathcai、George Reyesというメンバー構成。

そのイベント出演用と思われるフライヤー画像↓
Gipsy Kings by Patchai Reyes

しかしイベントのために結成された一時的なユニットのようで、定期的にライブを行なっているという情報は見当たりません。

GKネームバリューの恩恵を受けるジプシールンバミュージシャンたち

ステージ上にギタリストがずらりと並び、ドラムやベース、キーボードが入りパフォーマンスに厚みを加える。そしてセットリストには必ずVolare、Bamboleo、Djobi Djoba、A mi maneraが入り、リードギタリストはInspirationそしてPharaonを奏でるのが鉄板・・・。
多少の差こそあれどのグループも一様にこのスタイルを崩そうとしません。さらにバンド・ユニット名に「Gipsy Kings」という冠を添えることでより注目度を高めることができます。

オリジナルメンバーが分散した今、それぞれがGipsy Kingsを名乗り活動し、誰もがその恩恵に預かろうとするのは当然の流れだと思います。オリジナルメンバーじゃないReyes家やBaliardo家に関わるミュージシャン、あるいはそれらファミリー以外のミュージシャン、ひいては世界中の、言ってみれば日本で活動している僕らGipsy Grooveももちろんその恩恵に預かってるわけです。(Gipsy Kingsってタイトルつければお客さんも分かりやすいし、ライブでは必ずGKソングをメインに演奏しているのが現状^^;)

まあ、ビートルズやローリングストーンズ然り、アマチュアのカバーバンドなど本家をリスペクト&トリビュートしてみんなで楽しもうという目的なら問題ないでしょう。(日本ではJA○RACがうるさいけど。)
問題はGKの名を利用してプロモーションを行い集客に繋げる行為です。それがGKオリジナルメンバー間とその周辺でずーっとくすぶってる状態です。一体「Gipsy Kings」とは誰のものなのか?

Gipsy Kingsの名前は誰のもの?・・・ついに決着なるか?

先月初めにフランスの新聞がこんな記事を出しました。

Gipsy Kingsの名前訴訟に関する新聞記事
Gipsy Kingsの名前訴訟に関する新聞記事

Gipsy Kings : bataille pour un nom à la barre du tribunal | La Provence

フランス語をGoogle翻訳でチェックした意訳ですが、だいたいこんなことが書いてあります。

  • ChicoがGKを脱退した1990年代からGKの名前使用不可の判決が下りて以来度々裁判沙汰になっているが、2014年以降、さらに重要度が増している。
  • 現在GKオリジナルメンバーの何人かがソロ活動のためGipsy Kingsを名乗っている。
  • しかしCanut、Paul、Patchaiの3人は(自分たちが追い出される形となり)、創設メンバーではないNicolaとToninoの息子たちが新たに加入した体制でもなおGipsy Kingsとして活動していることに異議を唱えている。
  • オリジナルメンバーが在籍していないにも関わらずGipsy Kingsと名乗っているグループが15ほどもあり、彼らに対しても申し立て(法的罰則はない)を行なっている。
  • CanutとPaulはGipsy Kingsの残した偉大な伝説を守るため、これまでその名前を使わずにいた。Chicoも(法的に禁じられているせいもあり)その名を使って来なかった。
  • Gipsy Kingsという名前の乱用を避け、才能を復活させるためには、法的に秩序を守る必要があるのかどうか?

ある情報筋によると、Gipsy Kingsの名前使用権に関してこの2月中に判決が下るそうです。
また続報をキャッチしたらこのブログでも紹介したいと思います。

ファンとしてはオリジナルのGipsy Kingsが見たい

最近GKの動画がいろいろYouTubeにアップされてるけど、毎回メンバーが違う気がする・・・そういう風に思う人もいることでしょう。
それには裏事情(それもかなり泥沼な)があったということがお分かり頂けたかと思います。

ファンとしては1990年前後のUSツアーやロンドンのロイヤルアルバートホールでのライブ映像みたいな、オリジナルメンバーによるライブがまた見たいと期待してしまいます。でもそれもどうやら叶わぬ夢となりそうです。

チコジプをはじめ、いわゆる「ポストGKバンド」は、皆どれも安定した素晴らしい演奏をやってくれます。若手も加わって勢いもあり、世界で通用するスキルを持っています。

でもやっぱりGipsy Kingsは唯一無二なんだよな〜〜
あのオリジナルメンバー以外はやっぱり別物

伝説は伝説として綺麗なまま残しておき、その名前にすがることなく若いミュージシャンたちで新たな伝説を作っていけないものか。
まあいろいろ難しいのでしょうね。

まだしばらくはこの争いがくすぶり続ける気がします。

2 comments

  1. 良くまあご存知、お調べの事ですね〜、感心します、よーくわかりました、ありがとさんです!

    1. かなりマニア向けの内容でしたが、現状はこんな感じだと思います^^ お読み頂きありがとうございます。Luis

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