ジプシールンバが伝統的なフラメンコの流れには属さないということは明白として、それではフラメンコの中の一形式、ルンバフラメンカには属さないのか?
ここでは南仏のジプシールンバとスペインのルンバフラメンカの違いについて触れていきたいと思います。
ルンバフラメンカはフラメンコの世界ではキューバのリズムであるルンバを取り入れた準フラメンコと位置づけされています。
スペインのカタルーニャ地方で流行った音楽なのでルンバ・カタラナとも呼ばれます。
このルンバフラメンカは純粋なるフラメンコではないので、フラメンコ界ではあまり重要視されません。どちらかというとショーの余興やフィエスタなどで楽しく演奏されることが多いです。
そして南仏のジプシールンバも2拍子系のリズムパターンで演奏され、純粋なフラメンコではないけど両者は同一と考える人もいることでしょう。
しかし、この二つも似て非なるものと考えないと、混乱してしまうかもしれません。
ルンバフラメンカとジプシールンバの違いを3つの側面で分析
- 演奏スタイルの違い
- ギターの演奏方法の違い
- 曲調やメロディーの組み立て方の違い
この3つに注目して両者の違いを見てみましょう。
演奏スタイルの違い
南仏のジプシールンバはご存知Gipsy KingsやChico & the Gypsiesを始め様々なグループが存在しますが、共通するところは「大勢で立ちながら演奏」するところじゃないでしょうか。
一人でもギターを弾いて歌えば曲は成立しますが、野外で多くの人に聞いてもらうためには大勢でギターを叩いてリズムをシンクロさせる必要があります。そこで生じるグルーヴ感を楽しむ音楽・・・それがジプシールンバとも言えます。
一方スペインのルンバフラメンカはリズムというより、流行りの歌や音楽それ自体を楽しむ音楽とも言えます。
ギターと歌だけで表現されることもありますが、複数の楽器パートを加えたバンド形式で活動するグループも多く見られます。その中でギターは幾つかの楽器のうちの一つという位置づけです。ギタリストが4人や5人、それ以上の人数でいっせいに経ちながらギターを弾くという光景はあまり見られません。
南仏のジプシールンバは大勢で立ちながら演奏することが多い。
ルンバフラメンカのギターは複数の楽器の中の一つという位置づけ。
ギターの演奏方法の違い
フラメンコギタリストが奏でるルンバフラメンカの場合、ところどころにフラメンコ奏法のテクニックを入れつつ、リズムの面では「軽く流す」パターンが多いのが特徴です。
曲の盛り上がるところなどでゴルペ重視の激しくかき鳴らす場面もあったりしますが、終始激しくということは無く、決まった箇所にアクセントを入れる部分以外は流して弾くことが多いように見えます。
一方ジプシールンバは、(静かな曲は除いて)終始激しく、パーカッシブにゴルペ等を入れまくり、そしてかき鳴らしまくりです。
実際フラメンコのギタリストの中にはジプシールンバを否定する人もいます。「それはルンバではない」と。
フラメンコのルンバではゴルペを薬指で叩くことがありますが、ジプシールンバの場合はリズムを際立たせるために手のひら全体あるいは親指でボディーを叩くのが一般的です。
ルンバフラメンカのゴルペは単にリズムの中のアクセントとして打たれますが、ジプシールンバではゴルペがリズムの要として大きな役割を果たします。そんなところにも両者の違いを感じます。
極端な例ですが、両者の音楽の違いが判る映像をご覧ください。
Rumba (Manzanita & Ketama)
カルロス・サウラの映画「Flamenco」の最後に出てくる場面。メロディーに乗りつつ流すようにギターを弾いている。
Jose & Los Reys [Gipsy Kings] Lailola[No Hablas Mas]
古い映像だが、Gipsy Kingsの前身Jose Reyes y Los Reyesの演奏。ギターのリズムが重視された音楽。
曲調やメロディーの組み立て方の違い
ルンバフラメンカはスペインのフラメンコが根底にあるため、アレンジが加えられた曲でもメロディーや曲調が「フラメンコ風」になることが多いです。
歌い手はフラメンコならではの間の取り方とコブシとをきかせて歌うことにアイレやパッションを表現します。
El Potito con Tomatito y Paquete en El Dorado-El Palmar | VEOFLAMENCO
フラメンコのアーティストによる共演。
またルンバフラメンカはあくまでキューバのルンバをフラメンコに取り入れているというニュアンスが強く、ボンゴやコンガなどのラテン打楽器やホーンセクションを強調した曲づくりをしていることが多いです。
Ojos de Brujo - Rumba del adios (Video clip)
一世を風靡したOjos de Brujoのルンバ。ラテン打楽器やホーンセクションがメインでギターはサラッと流す感じ。
ジプシールンバでもフラメンコやラテン音楽をベースにした曲は数多くありますが、あくまでもギターのリズムが押し出されたサウンドを好みます。
そしてフラメンコの曲調にとらわれない自由な曲作りをしている場合も多いです。言ってみればポップな曲作りとでもいいましょうか。
Gipsy Kingsがカバー曲として選んだVolareやA mi maneraはもともとイタリアのカンツォーネでしたが、ギターサウンドを前面に押し出すことにより、ジプシールンバとして曲を完成させています。
Gipsy Kings - Volare (Official Video)
A mi manera - Gipsy Kings
Chico & the Gypsiesも近年は様々な曲をカバーしておりますが、リズムの要となるギターサウンドは必ず前面に出ていることが特徴的です。
Chico & the Gypsies - No Puedo Quitar Mis Ojos De Ti (Can't Take My Eyes Off You)
まあ、こういった曲をカバーすることに賛否両論ありますが、どんな曲でもジプシールンバはギターサウンドとそれに伴うグルーヴ感を重視していることがお分かりかと思います。
まとめ
スペイン風のルンバフラメンカと南仏のジプシールンバをガッチリと定義することはできませんが、なんとなく両者それぞれの特徴を挙げてみました。
ジプシールンバはやはりギターのリズムとグルーヴ感が重視された音楽だということが一番の特徴かと思います。
ただし必ずしもその法則が当てはまるわけではありません。
南仏のジプシーミュージシャンたちは「これこそジプシールンバだ!」という絶対的な確信などまったく持たずに演奏をしているはずです。むしろフラメンコを根底に捉えつつ、そのアイレをルンバ音楽でいかに表現するか、そこに楽しみを抱いている感さえあります。
フラメンコから派生した陽気なラテン風ミュージックがルンバフラメンカ、さらにそこから派生してギターサウンドを強調した音楽がジプシールンバ。
そんな構図をイメージしても良いかもしれません。